第4回 江 川 紹 子-今、飛騨を語る-

江 川 紹 子
— 今、飛騨を語る —
時 :1999年2月7日 (日)
場所:高山別院

最近になってまたオウムのことが、あちこちで話題になっています。この前オウムが土地を買ったという山梨県の清里と長野県の方に住民の方が反対運動をされている現場を見に行ってきました。清里では、競売で落札された物件でどうすることもできなくて、皆さんすごく心配していらしゃいます。

一番の問題は、オウムの人達が一連の事件について、事実を認めたこともそれについて過ちを認めたこともなければ、謝罪をしたこともない。たった一度もないことに、皆さん警戒心を持つのだと思います。これは、「本当に間違っていました。あの教えは悪うございました。だけど、我々はもう一度修行をしてみたいから、再出発させて下さい」 と言えば話は別なんでしょうが、それが全くないので、信用ができない。

彼らはよくいろいろな嘘をつきます。それは細かい嘘です。だけど、それが積み重なっていくと問題です。例えば 「この日までには、ここには入りません」 という口約束とか、「我々はオウムの信者じゃありません。もう脱会しました」 という約束とか。しかし彼らが本当だと言っても、今までの多くは嘘の場合がありましたから、私には信用できない。当然のことです。このように、どこまで信じられるのか本当なのか分からないというのが、オウムの言動には余りにも多すぎるのです。だから約束しても、それこそ文章にして 一言一句「言質」を取ってでもおかない限り、非常に分かりにくいのです。

例えば出家信者が個人で土地を買ったと言いますが、買えるわけはないのです。オウムでは信者は私有財産を持ってはいけないのですから、土地など買える訳がないのに信者個人の土地だと言ってみたりするわけで、だから信用ならないところがあるわけです。

あの上祐はサリンのことなんか全然知らないような顔をして、実際に殺人事件では1件も裁かれてはいません。しかし、サリンのプラントを最初に手掛けた時に、技術者の物色や人選をしたのは上祐なのです。また東京の亀戸で、彼らは炭素菌という猛毒の細菌の培養のための施設を作って、実際にそれを撒きました。上祐はその炭素菌の計画の責任者だったのです。彼は人殺しを知らなかったのでも否定しているのでもなくて、人殺しのやり方をもう少しうまくやれと言っているだけの話です。そういう人が何も過去についての清算も全くしないで、今年の末に出所してくるのです。

多くの人達は、オウムが進出して来ては困ると反対運動が起こります。東京でも各所にオウムの拠点がありますが、だいたい進出して問題になるのは地方です。東京では大きい土地建物を買うには高すぎて入手不可能ですから、オウムはどうしても地方に行きます。そうすると、今まであまり自分たちとは関係のないと思っていたすぐ隣に、オウムが来るということで大騒ぎになるのです。

土地の入手法は色々ありますが、例えば、親が亡くなって土地を相続したが、相続人は東京にいて相続税も大変だという所に買いに来る。あるいは倒産や競売などの曰く付きの物件を目ざとく見つけてきます。これは直接オウムの関係者あるいは元関係者と称する者がやる場合もあれば、その仲介に立っているオウムの信者ではない人もいます。つまり、オウム事件を利用して金儲けしようとしている人が、この世の中には何人かいるわけです。そういう人達の協力を得て、あちこちの土地がオウムに手に渡るのです。

それでは、そこを追い出したらどうかというと、また次へ行き大騒ぎになります。その繰り返しです。聞くところによると、飛騨の皆さん方の所の近くにも、信者だか元信者だかよく分かりませんが、そういう建物があるらしいですね。そして実際に、現役の信者の人達が出入りをしているということで、とても心配をされている方達が多いと思います。

私が聞くところでは、上九一色村に住めなくなったとたんにこちらにどっと来て、そこに定着し近くに働きに出かけ、 稼いだお金はお布施をしているそうです。そのお金が最終的にどこに行き着くのか分かりませんが、実際問題オウムの信者と同じ状況の生活をし、信仰生活をしている。彼らに言わせると信仰生活です。そういう人が、 何人もこの辺にもいるようです。

この深刻な問題にどう対応するのか、選択肢は二つあると思います。 一つは、とにかく自分の半径何メートルからオウムがいなくなればいいという考え方です。そういう考え方には、その対応策として弁護士や警察のなどの専門家の知恵を借りて、有効な手法を教えてもらって、対応するという方法です。だけど、それでいいのかと私は思います。そうするとまた別の隣町に行きます。その繰り返しです。中には、オウムが土地を買ったという噂が立ったとたんに、相場より高くその土地を買った行政体もあるようですが…。それではあちこちの行政体が、何か空いている土地を次から次へと買わなければならない破目になるわけです。またオウム問題を利用して金を儲ける人の格好のお得意様になっていしまいます。そんなことを繰り返していても、すごく無意味な感じがします。

私は、オウム真理教の問題は、そこからの追い出しという短期の手法だけでいいのだろうかと思います。これから絶対に何か問題がないという保証はないわけですから、そのことについてウオッチしていくということがとても大事で、もっと息の長い取り組みが必要だと思います。基本的には。一つの市町村だけではなく、 同じような経験をしていた人、あるいはそれ以外の所も含めて、なるべく多くの方々と情報交換するなり、連携を取るなりすることなんです。これはどこかの一行政でやっていても駄目なんです。

私がとても残念なのは、オウム真理教の事件があれだけ沢山明るみになって、あれだけの死者や被害者が出て警察が動いたという時になっても尚、オウムの問題が根本的に解決しようという動きにならなかったことです。
根本的にオウムに限らずカルトの問題をどういうふうに考えていくのか、この国のあり方が問われていると思います。地震を含めての災害、環境問題、カルトというのは、これからの日本の三大脅威の一つだと思います。

私は坂本弁護士がオウムのことをやるずっと前から友人でした。今から10年前、1989年の5月に、ある見知らぬ親御さんから電話をもらって、うちの子がオウムという所に行ってしまい生きているか死んでるかも分からない。連絡が取れないと言われて、坂本さんにその対応を頼んだのです。その挙げ句のはてが、坂本さんだけではなく家族の奥さんや僅か1歳の子供まで含めて殺されてしまうというような状況でした。こういう被害というのは、もう二度と起きてほしくないです。

質疑応答
Q:オウムも住み込み信者というのは、集団で暮らすわけですよね。普通の民家を借りた場合、農村とか山の中とかの空家を借りた場合、 暮らす単位というのは何人ぐらいですか。
A:民家を借りて住む場合、その家の広さにもよるでしょうし、一概には言えないと思います。ただなるべく共同生活をして少しでも経費を浮かすだけではなくて、一緒に住むというところがポイントで、何かで気持ちがぐらぐらっとなる時があるわけです。そうなった時に、マインドコントロールを掛け合うというのか、よく言えば励まし合うわけです。彼らに言わせると、 「落ちる」 ということを防止するという効果もあるみたいですから、 一石二鳥で、4、 5人もしくは10人くらいで集団生活をしたがる傾向にはあります。

Q:殺人事件まで引き起した宗教団体に対して、破防法の適用がどうして国は掛けることができなかったかということを、教えていただきたいと思います。それさえ掛かっておれば、現在のような住民とのトラブルはなかった筈じゃないかと思いますが。
A:破防法が適用されていても、今起きている問題は起きています。破防法というのは、強い法律ですが、非常に使い方の難しい法律でオウムのような宗教団体を前提としている法律ではないので、あれをやったからといってオウムが無くなるかというと 無くなりません。
自分達はオウムを止めました、ヨガの勉強をしているだけですと言った時に、破防法は適用できません。麻原の顔を掲げなければ、こっそりどこかで周りの人に分からないようにすれば、オウムなのか仏教なのか、 それとも何か 新しいオウム的なカルトを始めたのか分からなくなります。私は今よりもっと怖いと思っています。それから任意の団体が土地や建物を買うことは、 日本の国では禁じられていません。ですから、オウム真理教に破防法を適用しても、 個人の名前で取得すれば簡単にできてしまいます。
何でもこの辺で問題になっている人達は、破防法が適用されることが話題になった時に、養子縁組をして家族であるということにしたようです。「家族が一緒に生活しているのです」 と言われた時には、破防法では何もできません。例えば家の中で麻原の写真を掲げて何かやったとしても、どうやって分かるでしょうか。今よりももっと秘密結社的になって動きが分かりづらいし、分かった時には手遅れになっていると思います。結局、破防法をやったからといって、プラスになることはほとんどないと思います。 唯一あるとすれば、麻原の顔を出して勧誘活動ができないということは言えると思います。そういう意味では現在のオウムは本当にしゃくにさわりますからね。チラシやビラをまかれたり、インターネットでバンバン宣伝されたりすると。そういうのが無くて 清々するかもしれません。しかし、あれが出ているから、 オウムだと分かるのです。

司会:ヨーロッパにはカルト法という法律があります。 一般にはオウムイコール仏教だというイメージがあるのですが、宗教ではないのです。いわゆるカルトなわけです。つまり、カルトと宗教は全く別物なのです。そういう意味では、 日本にカルト法が成立するまでには、 かなりの時間と努力が必要だと思いますが、私達一人ひとりが、カルトとは何かという知識を持つことによって、防衛することができると思います。

Q:今までにいろいろな地域をご覧になって、住民運動を正しく進めていくには、どういうことに確信を持ったらいいのかを教えていただきたいと思います。
古川町の実例をお話したいのですが、そこに住む人達は、私達は脱会者だと言っています。脱会しているのに、なぜあなた達は私達をいじめるのだとだいぶん抗議も受けたし、脅しも受けました。しかし、住民登録している人間の中にオウムの信者名簿に入っている人がほとんどいるわけです。例えば、飛騨金山町にある施設が、役場でオウムの施設だということで買い上げましたが、そこにいた信者が古川町に来ています。 今、 公安調査庁がアジトと認識している茨城県の三和町、 岐阜の美濃加茂市、 それと埼玉県などから、 車がしょっちゅう出入りしているのです。その所有者を調べると、全部信者が所有者でした。本人達は脱会者と言いますが、私達が見ている限りは、 ほとんど嘘なのです。高山の飛騨の里でも古川町のオウムの中心人物によって施設が買われたそうです。だから古川の問題だけでないので、本当に飛騨一円、オウム対策協議会みたいな連絡会ができればいいと思っています。結局黙っていれば、 飛騨は私達オウムを認めていてくれるんだということで、どんどん入り込んで来ると思うのです。その辺で、全国的に成功例、 失敗例、 それから教訓的なものがありましたら、 お教え願いたいと思います。
A:非常に難しいご質問です。私にはこれこそ成功例ですというのは、ほとんど無いに等しいと思います。また警察に頼んでうまく行った所は、無いです。事件が起きなければ警察は動けません。今はオウムというと警察はピリッととしますが、 過去にはオウムといくら言っても、動いてくれなかった所もあるし、すごく温度差がありました。
行政はというと、行政の立場をまず考えてしまうことがあり、実際には中々動いてくれないなど腰が重いです。まず役所主導の形というよりも、住民の人達が他の市町村の住民の人達と連携を取ることしかないかと思います。清里にしても長野にしても、 まさかうちに来るとは思わなかったというので、 オウムのことをあまり知らないのです。単にオウムイコール怖い。だから反対ではなくて、何が問題なのか、どういう人が出入りしているのかなどオウムの実態を知ることが大事です。そして、 一人でも多くの人たちと連携をどうやって取っていけるかということだと思います。是非、がんばっていただきたいと思います。